「もったいないですよ」と言われた日の話

電話をかける前、スマホを握ったまま5分間、画面を見つめていた。

保険の担当者に「解約を考えています」と伝えるための電話。たったそれだけのことなのに、なぜかすごく緊張していた。

そもそも、電話をかけるまでにも時間がかかった。

平日は仕事中で、担当窓口が開いている時間に手が空かない。「お昼休みに」と思っても、本人確認やら内容確認やら、30分のお昼では絶対に終わらない気がして踏み出せなかった。「今日もできなかった」という日が、何週間も続いた。

なんで保険の見直しって、こんなに面倒なんだろう——と思いながら。

それでもある日、思い切って半休を取った。「今日やらなかったら、また先延ばしにする」そんな気持ちで。


「もったいないですよ」

担当の方は、とても感じのいい人だった。

丁寧な口調で、私の話をちゃんと聞いてくれた。そして、一通り聞き終わったあとで、こう言った。

「でも……もったいないですよ。せっかくここまで続けてきたんですから」

もったいない。

その言葉が、じわっと胸に刺さった。3年間、毎月払い続けてきた。確かに「続けてきた」のは事実だった。

でも、私はそのとき気がついた。

「続けてきたこと」と「必要だったこと」は、別の話だ。


「お母さんへの保障はどうするんですか?」

担当者の方は、もう一つ言った。

「受取人をお母さんにされてますよね。もし何かあったとき、お母さんのことを考えると……」

胸がぎゅっとなった。

お母さんのために入ったんだった。父に勧められて、「もし私に何かあったとき」という気持ちで、受取人を母にした。その気持ちは本物だった。

でも、冷静に考えてみた。

独身で、健康で、持病もない30代の私が、2,000万円の死亡保障を毎月3.5万円払って維持する必要があるか——?

「お母さんへの気持ち」と「2,000万円の死亡保障が必要かどうか」も、別の話だった。


感情と、事実を切り分ける

担当の方を責めるつもりはまったくない。

誠実に、私のことを思って言ってくれた言葉だと今でも思っている。

ただ、保険の見直しを「感情」で決めてはいけない、と気がついた。

  • 「続けてきたからもったいない」→ 過去のお金はもう戻らない。今から何が必要かで判断する
  • 「家族への愛情」→ 愛情の大きさと、保障額の大きさは比例しない
  • 「何かあったら怖い」→ 「何かあること」の確率と、必要な備えを冷静に考える

感情は大切。でも、お金の判断は事実ベースでやる。

それが、あの電話から私が学んだことだった。


結局、どうしたか

電話を切ったあと、一晩考えた。

翌日、改めて担当の方に連絡して、不要な特約と高額な死亡保障を外す手続きを進めた。

担当の方は最後まで丁寧に対応してくれた。解約ではなく「見直し」という形にしたので、関係も穏やかに続いた。

手続きが完了したとき、肩の荷が下りた感じがした。

怖くなかった。むしろ、やっと自分のお金と向き合えたという感覚だった。


「もったいない」と言われたとき、立ち止まるのはいい。 でも、立ち止まったまま動かないのは、もっともったいない。


💡 見直しのとき、感情に流されないために

  • 「続けてきた年数」は判断材料にしない(埋没コスト)
  • 「家族への愛情」と「必要な保障額」は別で考える
  • 担当者の言葉は参考にしつつ、最終判断は自分でする
  • 迷ったら「今の自分の状況に合っているか」だけを基準にする
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